頭痛の悩み.jp

朝にだけ頭痛が起こり、目のかすみや吐き気も

Hさんの場合命に関わる恐れがある頭痛

朝目覚めると頭痛が

時間は朝の5時。手を伸ばしてアラームを止めたHさんは、いつもと違う目覚めに顔をしかめ、しばらくそのままじっとしていました。
「どうしたの?」と隣のベッドの妻。
「いや、なんだか頭が痛くてな。昨日の夜に酒を飲んだわけでもないのに」
Hさんはゆっくり起き上がり、大きな伸びをします。
「まあ、すぐに治まるだろう。日課の散歩に行ってくるよ」
頭痛を気にしながらも、Hさんは着替えて外に出ます。近所の河川敷を1時間ほど歩き、家に戻った頃には痛みはすっかり治まっていました。食卓につくと、好物の納豆をほおばるのでした。
「そういえば」と妻がたずねます。「会社の健康診断の結果はどうだったの?」
Hさんは左手の親指を立てて“Good”のサインをつくり、
「ほとんどA判定だったよ。この歳でこれほど健康に問題がないなんて、毎朝の納豆のおかげだな」
Hさんは冷蔵庫を開けて納豆をもう1パック手に取り、鼻歌まじりでかき混ぜ始めるのでした。

目がかすんでよく見えない

「ただいまー」
2週間ほど経った日曜日の朝、一人暮らしをしているHさんの娘が実家を訪れました。
「おお、どうしたんだ急に」
頭を手で押さえつつ、つらそうな表情で出迎えるHさん。その様子を見て娘は、
「お父さんこそ、どうしたのよ。頭、どこかにぶつけたの?」
Hさんは反対の手を振り、最近朝に頭痛がよく起こることを話します。
「といっても、午前中には痛みは治まって、昼頃にはなんともなくなるんだが」
「健康診断では何も問題なかったって、お母さんが電話で言ってたけど。でも、すぐに治まるんだったら、大丈夫じゃない?」
そう言いながら娘は靴を脱ぎ、郵便物をいくつかHさんに手渡します。
「ポストに入ってたわよ」
ひとつひとつ内容や差出人を確認するHさんでしたが、「んん? 目がかすんで読みにくい……」
「やだ、老眼が進んじゃったの?」
Hさんは視線を上げて、「いや、近くだけじゃなく、遠くもかすむな」
「もう歳ね」
そう言って笑う娘。Hさんも苦笑いします。
「ところで」とHさんは真顔に戻り、「今日は何しに来たんだ?」

朝にだけ起こる頭痛を
大したことないと考えるHさんでしたが……

吐き気と嘔吐に襲われる

それから1ヵ月が過ぎ、Hさんの頭痛は徐々に悪化していきました。朝だけだった頭痛は、日中ずっと続くことが多くなり、仕事にも支障が出るように。痛みの強さも以前より増しているようでした。
「これは病院で診てもらったほうがいいのかもしれんな」
一旦そう考えはするものの、しかし繁忙期に入った仕事と、自分は健康なはずだという気持ちがブレーキとなり、ついそのまま放置してしまうHさん。次の休日、頭痛がつらくてソファで横になっていたところ、急に吐き気を覚えてトイレに駆け込んでしまいます。ドアの向こうで嘔吐している気配を感じた妻が、
「大丈夫? 何か悪いものでも食べたかしら?」
Hさんは朝の記憶を呼び戻しながら、いつもと同じ納豆の朝食だったが……と考える一方で、胸の奥の不安がいつのまにか大きく育っていることも同時に感じていました。そのとき、電話の音が不穏に鳴り響きます。
「もしもし、お母さん? お父さんいる? ……え、トイレで吐いてる!? 早く病院へ連れて行って。できるだけ早く。お父さん、かなり深刻かもしれない」

精密検査で「脳腫瘍」が見つかった

大学病院で精密検査を受けた結果、Hさんに「脳腫瘍」が見つかりました。しかし幸いなことに悪性ではないとの診断で、発見も比較的早かったため、ただちに命を脅かすような状態ではなさそうとのこと。Hさんは病室のベッドで上体だけ起こし、窓の外をじっと眺めていました。
「お父さん、具合はどう?」
娘が着替えや日用品を抱えて訪れますが、Hさんは窓のほうに顔を向けたまま、
「おまえの言った通りだな。やっぱりもう歳だ」
そうつぶやいて力なく微笑むのでした。そんなHさんの肩に娘は手を置き、
「こんなときにあれなんだけど……紹介したい人がいて」
その言葉にHさんが振り向くと、娘の後ろに見知らぬ男性が立っていました。深々と頭を下げる男性。娘は気恥ずかしそうにしながら、
「結婚を考えているの。1ヵ月くらい前に家に帰ったのも、その話をするつもりだったのよ」
驚くHさん。いつかこんな日が来ると思ってはいたが、まさか今だとは。そうか……とだけ返事をして、その後は何も言葉が浮かんできません。娘は話を続け、
「実はね、お父さんが脳腫瘍じゃないかって気づいてくれたのも彼なの。彼のお父さんも同じような症状があって、脳腫瘍だったんだけど、手術して今はすっかり元気なんだって」
Hさんはうなずき、男性に向かって、ありがとう、と頭を下げます。そして再び娘のほうに向き直り、明るい笑顔でこう言うのでした。
「そういうことなら、もう一度元気になって、結婚式に出られるようにしないとな」

解説

医者
静岡赤十字病院
脳神経内科部長・頭痛センター長
今井 昇先生
何らかの原因疾患によって起こる、命に関わる恐れがある頭痛
片頭痛や緊張型頭痛など、原因となる疾患がなく頭痛自体が病気である「一次性頭痛」に対して、何らかの原因疾患によって起こる頭痛を「二次性頭痛」と呼びます。二次性頭痛の中には、命に関わるような危険なものがあり、脳腫瘍の他、くも膜下出血、脳出血、髄膜炎、脳炎などの病気では頭痛を伴うことが知られています。
これらの頭痛には、症状が急激に悪化するタイプもあれば、徐々に悪化して気づきにくいタイプもあるため、注意が必要です。例えば脳腫瘍では、頭痛が最初は朝にだけ起こっていたのが、やがて日中も続くようになることが少なくありません。あわせて、目のかすみや、吐き気と嘔吐、けいれんなどの症状が次第に現れてくることが多いのも特徴です。
命に関わる恐れがある頭痛は、早期発見が何よりも重要です。気になる症状のある方や、頭痛をお持ちの方でいつもと違う頭痛を感じたら、できるだけ早く病院を受診して医師にご相談ください。