頭痛の悩み.jp

頭がギューッと締め付けられるように痛む

Dさんの場合緊張型頭痛

これまでなかった肩こり&頭痛

「どう、新しい仕事には慣れた?」
夕食の後、リビングでくつろいでいたDさんに妻がたずねます。
「問題ないよ」と読んでいた本から目を上げて応えるDさん。「いや、ひとつあるな。一日中パソコンの画面とにらめっこだから、肩がこってしょうがない」
そう言って笑い、首を左右に回します。本にしおりを挟んでテーブルに置くと、じゃ先に風呂に入るよ、と部屋を後にしました。Dさんは浴槽に浸かりながら、湯気に覆われた天井をぼんやりと見上げます。
「ああは言ったけど……」
20年以上ずっと営業一筋で、忙しく取引先を飛び回っていたDさんが異動を命じられたのは、今から2ヵ月ほど前のこと。新しい部署では内勤となり、慣れないデスクワークに苦戦する毎日でした。
「明日もずっと部屋に閉じこもって仕事か……うーん、頭が痛い」
思わず口に出た“頭が痛い”ですが、あながち喩えというわけでもなく、この2ヵ月の間は肩こりに加え、頭痛にも毎日悩まされているDさんなのでした。

パソコン作業とストレスで症状が悪化

翌日。頭をギューッと締め付けられるような痛みに耐えながら、Dさんは会社のパソコン画面に向かってキーボードを打ち続けています。午前中に終わらせなければならない仕事が山のようにあり、焦りで体は固くなって、頭痛も強まるばかりです。
「Dさん、ちょっと」
パーテーション越しに向かいの席から覗く顔。Dさんは作業の手を止めて、
「どうした?」
「さっき送ってもらったデータなんですが、マズイところがけっこう多くて……」
データの不備について指摘を受けるDさん。はるか年下の同僚は言葉を選びながらも苛立ちを隠そうとせず、
「まいったなぁ、かなり基本的な部分なんですけどね」
その言葉に一瞬カッとなるDさんでしたが、グッと我慢して無理に笑顔をつくります。すぐに修正するよ、と再び画面に視線を戻して作業を再開。やがて時計の針は12時を回り、頭痛がますます強くなるのに伴って、Dさんのキーボードを叩く音もさらに大きく、いっそう高く部屋に響くのでした。

不慣れなデスクワークで頭痛が悪化。
ストレスが高まるDさんでしたが……

頭痛くらいで病院? でも……

社員食堂で遅い昼食をとっていたDさんに声を掛けたのは、同期入社の友人でした。
「おお、異動したんだってな。新しい仕事には慣れたか?」
「家でもまったく同じこと聞かれるけど、これまで営業しかやってこなかったのに、そんなにすぐ慣れるわけないだろ」
ムスッとするDさんの隣に同期の友人は腰を下ろし、
「だけど、カジュアルビズも似合ってるじゃないか。うらやましいよ、数字に追われるストレスからも解放されたわけだし」
「いや、また別の、もっと厄介なストレスに襲われてるんだ……」
Dさんは午前中のいきさつを話し、また、営業仕事では感じたことのなかった頭痛に毎日悩まされていることも伝えました。友人はうなずきながら、あ、そういえば、と何かを思い出して話し始めます。
「うちの部署の若いやつも頭痛がひどかったらしくて、会社を休んで病院を受診してたな。頭痛くらいで病院に行くのか、って驚いたけど」
……病院? とDさんの心に、これまでなかった選択肢が浮かび上がりました。確かに、大げさな気はする。しかし、医者に診てもらうことでこのつらさの正体が分かるなら……それに、もしも単なる頭痛ではなく、何か深刻な病気だったとしたら。

「緊張型頭痛」と診断されて

しばらく経ったある日の休日。妻はDさんをジョギングに連れ出しました。
「体を動かしたほうがいいんでしょう? あなたの緊張型頭痛って」
二人は公園を走りながら、Dさんの頭痛について話します。
「でも、命に関わるような病気でなくて良かったわ」
「医者が言うには、ぼくと同じように緊張型頭痛で悩んでいる人は多いらしいんだ。長い時間パソコンで仕事していたり、精神的に強いストレスを感じている場合にかかりやすいんだってさ」
「どうして頭痛を起こすくらい強いストレスを感じていたのに、私には何も相談してくれなかったの?」
それは……と一瞬言葉に詰まるDさんでしたが、「心配させたくなかったんだよ」
「嘘よ」妻は横目でDさんをにらみ、「どうせ、つまらないプライドでしょ。私に弱いところを見せたくなかっただけ。ただの格好つけ」
ギクリとするDさん。妻はペースを落とし、やがてゆっくり歩き始めます。おや、と立ち止まって振り返るDさんに、
「一人で走ってもつまらないわよ。頭が痛いあなたと、口が悪い私で、夫婦仲良くのんびりいきましょうよ」

解説

医者
静岡赤十字病院
脳神経内科部長・頭痛センター長
今井 昇先生
ストレスや筋肉の収縮によって起こる緊張型頭痛
頭痛の中でも特に罹患者が多い緊張型頭痛。頭全体を締め付けられるような痛みと、ひどい肩や首のこりがその特徴です。この頭痛は、筋肉が緊張して血流が悪くなることや、脳が痛みをうまく調節できなくなることが原因と言われています。特に毎日のように頭痛が起こる場合は、精神的なストレスも原因のひとつと考えられており、痛みに対して脳が過敏になっていると言われています。
対策としては、日頃から適度な運動を行うことや、リラックスできる時間をつくってストレス解消に努めることなどがありますが、日常生活に少しでも支障があれば、病院を受診して医師に相談することも有効な方法です。